甲状腺機能亢進症

高齢のネコちゃんで、最近ご飯をよく食べるのに体重が痩せていくなぁ、性格が少し荒っぽくなってあちこち活発に動くようになったなぁ・・・など、思い当たる節がある方は要注意です。

名前の通り、この病気は甲状腺ホルモンが多く作られてしまう病気で、さまざまな症状をひきおこす病気です。先ほど述べた症状だけでなく、2次的に心筋症や腎不全、高血圧症までもひきおこす可能性もあります。

診断としては、血液検査に甲状腺ホルモンの測定を行い、基準値をこえていると甲状腺機能亢進症と判断します。

治療としては大きく分けて2種類あり、長期的に内服薬を飲み続ける治療と、甲状腺そのものを外科的に摘出する方法があります。
(大学などの専門病院では放射線治療なども選択肢としてあります。)
内科的療法ではまず、甲状腺ホルモン産生を抑える薬を開始し、定期的な血液検査によってホルモンの数値をモニタリングしていきます。その際、甲状腺ホルモンが正常であっても腎不全の悪化や、薬自体の副作用(嘔吐など)の危険性があるため、慎重に経過をみる必要があります。
外科療法では患者の性格上、経口投与が困難な場合に選択されることがあります。またその際、全身麻酔での手術になるため、患者の年齢や一般健康状態なども考慮しなければなりません。

このように甲状腺機能亢進症は、この病気ひとつ治せばいいという病気ではなく、ホルモンに関連した様々な病態を考慮していく必要があるため、難しいと思われるかもしれませんが、しっかりと経過をモニタリングすることで治療できることができる病気です。

自宅で心当たりがある子はもちろん、高齢のネコちゃんは1年に1度の血液検査をおすすめします。

 

歯の病気(口臭)

最近、うちの子の口が臭い…ということはないでしょうか?
そういう子はちょっと口の中をのぞいてみましょう。
口臭の原因の一つてして、「歯石」があります。これは犬歯や臼歯の外側の部分に付着していることが多く、一度付着してしまうと歯磨きのような日常ケアでは取り除くことができません。

そして、ワンちゃんやネコちゃんは、「お口開けててください」と言っても、開けててくれることはやっぱり難しいので、もしも歯石を取り除こうと思ったら、全身麻酔をかけての処置になってしまいます。

たかが歯をきれいにするだけで全身麻酔なんて…と思われる方もいるのではないかと思いますが、ではこの歯石、放っておいたらどうなるでしょう?

歯石の中には食べカスのほかにたくさんの細菌が含まれます。そして歯石の上には新しい歯石が付着しやすく、歯ぐきに炎症を引き起こしたり、歯石が重度に付着してしまうと歯ぐきが痩せてきて、歯石除去をしても歯が抜けてしまうケースも多く見られます。
また、歯は目や鼻と非常に近い位置にあり、炎症が広がっていき顔が急に腫れたり鼻水が出たりすることや、目の下に穴が開いてしまうこともあります。

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重度の歯石付着例(クリックして画像拡大)

 

こうなってしまうと結局全身麻酔をかけて歯を抜いてしまうことが必要になります。

そうなる前にできること、それは、日ごろからのデンタルケアにより、できるだけ歯石が付着しないよう予防することです。

ワンちゃんやネコちゃんは口を触られることを嫌うコも多く、歯磨きなんてできない…という方も大勢いるのではないかと思いますし、また歯磨きはさせてくれるけど、歯磨きをしてあげてても口臭が一向によくならない…という方もいるのではないかと思います。
そういった場合は、そのコに合ったデンタルケアをしてあげるために、一度ご相談いただければと思います。

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スケーリング(歯石除去)実施前 スケーリング実施後
(歯の裏側もこのあときれいにしました)

 

犬の精巣腫瘍

去勢していないわんちゃんに起こる可能性のある精巣腫瘍について今回は取り上げたいと思います。

精巣が腫瘍化してしまった場合、多くの子で精巣が腫れてきたりします。

わんちゃんの精巣腫瘍には「セルトリ細胞腫」「精上皮腫」「間質細胞腫」の主に3種類があります。特に「セルトリ細胞腫」であった場合は毛が抜けたり、貧血や男の子なのに乳首が腫れてきたなどの症状がでることもあります。

精巣腫瘍になってしまった場合は基本的に手術で腫瘍化した精巣をとりますが、悪性の腫瘍であった場合やお腹や胸に転移していると手術でもとりきれないことがあります。

 

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左)摘出した精巣腫瘍

右)手術前のレントゲン(黄色の丸が腫瘍)

 

 

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左)腫瘍化した精巣

右)反対の精巣

 

 

 

わんちゃん・ねこちゃんは生まれてすぐの時には精巣は陰嚢の中ではなく、まだお腹の中にあります。わんちゃんなら正常であれば生後30日後くらいから精巣が陰嚢内に降りてくるようになっています。しかし時々、大人になっても精巣が陰嚢内に収まっておらず、お腹の中や皮膚の下に留まってしまっているままの子がいます。これを「陰睾」または「潜在精巣」というのですが、この陰睾になってしまった精巣は精巣腫瘍になる確率が高いです。お腹の中にある精巣が腫瘍になってしまった場合は腫瘍が大きくなってきても分からないことが多いです。

精巣腫瘍の予防は何と言っても若いうちでの去勢手術です!特に「陰睾」になってしまっている場合は腫瘍になってしまう前に早めに去勢手術によって精巣を取ることをおすすめします。

最近、「睾丸が腫れてきた」・「大人になっても陰嚢内に睾丸がない」などがあればお早めに当院にご相談下さい。

白内障

今回は、飼い主様にもなじみのある方が多い、白内障についてです。

白内障とは、目の中の水晶体という部分が、様々な原因によって白く濁った状態を言います。

白内障になる原因の多くは、加齢によるもの(加齢性)と、犬種によるもの(遺伝性)です。
しかしその他にも、水晶体への直接的な衝撃によるもの(外傷性)、糖尿病などの内科的な疾患から生じるもの(代謝性(ワンちゃんで多いです))、他の目の病気から生じるもの(続発性)などがあります。

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加齢性の白内障 外傷性の白内障(左眼)

では白内障とは、目のどのような変化なのでしょうか。
水晶体は、水分とたんぱく質で構成されています。
白内障は、このたんぱく質に不可逆的な(一度起きると元に戻らない)変化が生じることで起きます。
そのため、一度起きてしまった白内障を「治す」ためには、手術が必要になります。
しかし、加齢性に起きた白内障は、一般的に手術をしないことがほとんどです。

ここまでの話だけでは、「治すことは出来ないし、年齢のせいならしょうがない!」
と思う方もいるかもしれません。

しかし、白内障をしょうがないものだとそのままにしておくと、白内障から進行して、ぶどう膜炎や、痛みを伴う緑内障にまでなることがあります。

その進行を予防するために、「治す」わけではありませんが、「進行を少しでも遅らせる」ために、点眼薬やサプリメントを使用することもできます。

また、目が白くなる原因は、白内障だけではなく、他にもいろいろな目の病気の可能性があります。ワンちゃんやネコちゃんの目に異変を感じたら、早めに病院へ相談に来てください。

レッグぺルテス

レッグぺルテスとは大腿骨の骨頭部に壊死が起こる病気で、大腿骨頭壊死症ともいいます。大腿骨頭とは骨盤と大腿骨をつなぐ大切な股関節の一部を担っています。

この病気はまず、1歳までの若いわんちゃん多いのが特徴です。なかでも特にトイプードルなどの小型犬に多く経験します。症状として後ろ足に痛みを伴うので、足を床に着地するのを嫌がるようになります。最初は頻度が少ないですが、徐々に足を着地しないことが多くなり、なかには全く足をつかなくなってしまう子もいます。自宅でたまに足を挙げているような若い子は要注意なので一度、動物病院を受診したほうがいいでしょう。

この病気の治療は基本的に、壊死している大腿骨の骨頭を切除することです。切除しても大丈夫!?と心配される飼い主様は多いです。しかし股関節は大きな発達した筋肉があることと、時間が経つにつれて切除した骨頭のかわりにしっかりとした線維組織が作られるので、骨頭がなくなっても大丈夫です。ただ、足を長期間使っていないことで筋肉が衰えているような子に関しては正常な筋肉量が戻るまで時間がかかり、正常に歩行するまでの治療時間が長くなってしまいます。

当院では、股関節の痛みの有無レントゲン検査を併せて診断しています。
当院で実施したレントゲン写真を紹介します。

 

初診時  初診時 - コピーa
初診時

筋肉量:左足(
骨頭:正常

白マルで囲った部分が筋肉です
黄マルで囲った部分が骨頭です

 

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 1ヶ月後
初診時に比べて筋肉量が減少
骨頭部が黒く抜けている

骨頭の裏側

 

 骨頭切除後
手術後
 大腿骨の骨頭を切除した後の様子

 

 

 

 

去勢と避妊

今まの症例紹介でも何度か触れてきましたが、今回は去勢と避妊について取り上げてみたいと思います。

ではまず、なぜ去勢手術や避妊手術を行うのでしょうか?そのメリットとはなんでしょう?
一番のメリットは、女の子なら今までにも紹介してきたような乳腺ガン子宮蓄膿症といった病気の予防につながるということでしょう。ほかにも、男の子なら精巣のガン前立腺の病気、そして会陰ヘルニアという、男性ホルモンが関与している病気の予防につながります。

これらの病気の中には、命に関わってくるような病気もあります!

そして、そのほかにも、マーキングやおしっこの粗相といった問題行動の改善や、性格の穏和化といったメリットもあります。

また、当院で手術される場合、少しでも負担を減らすために、抜糸の必要のない糸で傷を縫っています。これは、とける糸で傷を縫い、外に糸が出ていないため、手術後傷を気にするコが少ないという効果もあります。

図2 図1
女の子の場合(ワンちゃん)
部分が傷です
男の子の場合(ワンちゃん)
部分が傷です

 

ただ、全身麻酔や手術は100%安全というわけではありません。
当院では術前に必ず血液検査を行い、少しでもそういったリスクを減らせるように努めています。

また、術後は代謝が落ちたりホルモンのバランスが崩れることにより、太りやすくなってしまうこともあるため、定期的に体重を測ったり、フードの量を調整したりと、しっかり体重管理をしてあげられるといいでしょう。

こういったメリットとデメリットから、手術をするかどうか、とても悩まれている方もいるかと思います。そういった方は一度動物病院へご相談いただけたらと思います。

胆嚢疾患について

健康診断で初めて発見されることが多い病気の一つに、胆嚢(たんのう)の病気が挙げられます。
それは、胆嚢の病気の初期には全くといっていい程症状が出ない事が多いためです。

そもそも胆嚢ってなに・・?と思われる方も少なくないと思います。
そこでまず、胆嚢がどのような働きをしている器官なのかをお話したいと思います。
胆嚢は肝蔵の中にあり、肝蔵で作られる消化液(胆汁)を蓄えておく場所です。
食事をすると、胆嚢から胆汁が十二指腸へ送られ食物の消化を助けます。

胆汁は健康な状態では、さらさらの液体なのですが、これが何らかの原因で変質して結晶化したり(胆石症)、泥状やゼリー状になってしまい(胆泥症、胆嚢粘液嚢腫)、うまく排泄されず貯まってしまう事があります。
ただ胆汁が貯まっているだけであれば症状は殆ど現れませんが、これが原因で重度の胆嚢炎が起きたり、貯まった胆泥や胆石などが胆汁を排泄させる管(胆管)につまってしまうと、胆管閉塞という状態になり吐き気や食欲不振、腹痛などの深刻な症状が出てきます。
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(左)胆泥の貯留した胆嚢の超音波所見

一度貯まってしまったドロドロの胆汁は中々きれいになくす事が難しく、症状がなかったり軽度であればそのまま様子をみていくか、利胆剤などの薬を使って貯まった胆汁を排出させやすくしていきます。
しかし、胆管閉塞を起こし重度の症状が出ている場合や、飲み薬を使っても症状がよくならない場合は手術で胆嚢を切除しなくてはなりません。パンパンに詰まった胆嚢を放置しておくと、胆嚢が破裂してしまう危険があり、破裂した胆嚢から胆汁がお腹の中に漏れ出てしまうと重度の腹膜炎を起こし死亡してしまう恐れがあるためです。

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胆管閉塞を起こし、パンパンに詰まった
胆管(左)と切除後の胆嚢から出た泥状の胆汁(右)

 

 

そうならないためにも、とにかく早期発見、治療が大切です。
当院では健康診断のための血液検査やレントゲン、超音波などの画像検査を行っております。お気軽にご相談ください。

鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニアとは、鼠径部(太ももの内側の付け根)において、本来お腹の中にあるはずの、腸管、膀胱、子宮、脂肪などが、皮膚のすぐ下に出てきてしまう状態のことです。

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赤丸で囲んだ部位が鼠径部です。
この症例では、子宮が鼠径部に出てきてしまっていました。

原因は、先天性の異常(遺伝性)、もしくは外傷性に生じるとされていますが、詳しいことは分かっていません。

先天性の異常の場合は、避妊手術をしていない中年齢の女の子、もしくは若い男の子に多く発生すると言われています。ワンちゃんに多く、ネコちゃんでは稀です。

鼠径ヘルニアになったワンちゃんの多くが、あまり痛がったりはしないので、「鼠径部になんだか膨らみがあるかな?」という感じで来院されるか、診察中に気づかれる場合が多いです。

しかし、ヘルニア内部の状態が悪い場合は、痛がる、吐いてしまう、元気がない、おしっこに異常が出てしまうなど、様々な状態が生じ、緊急を要する場合もあります。

症例1
診察時に発見された症例です。
おしっこの後に、少し尿漏れするという症状もありました。

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症例1 レントゲン造影写真
膀胱が腹腔内から出てしまって
いるのが分かります。
症例1 手術時の写真
鼠径ヘルニアの中には、膀胱が
入っていました。

症例2
右の下腹部あたりに何かできものができているとのことで来院された症例です。

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症例2 レントゲン造影写真
腸が腹腔内から出てしまって
いるのが分かります。
症例2 手術時の写真
鼠径ヘルニアの中には、腸が
入っていました。

鼠径部での膨らみは、ヘルニアの他にも、乳腺の腫瘍などの可能性もあります。

「ワンちゃんは元気だし、少し膨らんでいるくらいなら大丈夫かな」などとは思わずに、
気になったら早めに病院に来てくださいね。

異物の誤食には注意!

家に帰ったら、留守番中にワンちゃんがイタズラを・・!!

・・・という経験は皆さんよくあるのではないでしょうか。
特にまだ若いやんちゃな子は、元気があり余っていたり、歯の生え変わりで
ムズムズしたりで、とにかく何でも噛みたがります。

ただ、遊んでいるうちに勢い余ってイタズラしていた物(異物)を
飲み込んでしまうと大変です。(誤食)

ワンちゃんがイタズラをする物は消化出来ない物が多く、胃や腸の途中で詰まってしまって消化管閉塞を起こす危険があります。
そうすると、何度も吐く、元気がなくなる、などといった症状が出てきます。
一度詰まってしまった物は、自然にまた動くことは難しく、内視鏡あるいは手術により取り出さなくてはいけません。

330_11399_20130426155618.0異物摘出手術 内視鏡内視鏡

異物を食べてしまったのではないか?もしかしたら詰まっているかも・・
という事を調べる検査は、レントゲンや、バリウムなどの造影検査、超音波の検査になります。

330_11299_20130425162111.0330_11298_20130425152851.0レントゲン造影検査

誤食の予防は、とにかくワンちゃんの届くところに物を置かないことで防げます。
また万が一誤食をしてしまった時は、すぐであれば吐かせる事も出来る可能性もあるため、早めに一度動物病院へ相談してください。

注意するもの(お腹に詰まりやすいもの)
(犬) おもちゃ 歯磨きガム ビニール袋
    靴下や手袋 鳥の骨  など。
(猫) ヒモ状の長いおもちゃ 糸くず 毛玉 など。
毛づくろいをよくするウサギさんや、イタズラ好きのフェレットも注意!

子宮蓄膿症

子宮蓄膿症というと、人ではあまり馴染みがない病気で、「どんな病気?」と思う方も多くいるかもしれませんね。
名前の通り、子宮内に膿がたまってしまう病気なのですが、この病気は実はとても怖い病気です。外陰部から膿が出てきていれば、おかしいな、とわかるのですが、外見上は一見変化が見られないことも多々あります。そうして元気がなくなり、水を飲む量やおしっこの量が増えたり、嘔吐といった症状が出てきたら治療を急がなければなりなせん。もし治療が遅れると、腎臓などの臓器に障害が出たり、子宮が破裂しておなかの中に膿が出てしまったりしてしまいます。こうなってしまうととても大変で、場合によっては亡くなってしまうこともあるのです。

また、この病気の原因はまだ完全には明らかになっていませんが、発情にかかわるホルモンの一つが、この病気の発病の要因となっていることはわかっています。
つまり、このホルモンの分泌を抑えることが、この病気の治療につながります。

この病気の治療法としては、卵巣子宮摘出術(いわゆる避妊手術)という外科的な治療法と、投薬による内科的な治療法がありますが、投薬での治療は子宮蓄膿症の進行具合により適さない場合や、投薬で効果がでても再発の可能性が比較的高く、根治を目指すのであればやはり外科的に卵巣と子宮を摘出してしまうことがよいと思います。

正常な卵巣、子宮  子宮蓄膿症の例(1)  子宮蓄膿症の例(2) 
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また、この病気を予防する方法としても、避妊手術は有効です。
そのため、子宮蓄膿症の予防のためにも、もしも産仔することを考えていないのであれば、一度避妊手術について、お近くの動物病院へ相談してみてください。