陰睾について

 

みなさんは、陰睾(停留睾丸、潜在精巣)をご存知でしょうか。
陰睾とは、両側または左右どちらかの精巣が陰嚢内に下降していない状態のことをいいます。
実は、精巣というのは生まれた時から体の外にあるわけではありません。通常、精巣は生まれた直後はお腹の中にあり、生後1~2ヶ月までに成長とともに陰嚢内に下降していきます。下降する、というのはなかなかイメージしづらいかもしれませんね。
下の図をご覧ください。

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茶色が腎臓、クリーム色が尿管と膀胱、赤色が精巣を示しています。胎生期(母親のお腹の中にいるとき)には腎臓の後ろあたりにあった精巣は、徐々に尿管にそって膀胱の方へ移動し、最終的には膀胱を通りこして、陰嚢という袋に包まれて体外に収まります。なぜ移動するのか?それは、精子にとって体内環境が高温であり、体内に精巣があると精子がうまく育たないためです。精巣を体外に移動させて温度を下げてあげることで、精子が正常に作られるようにしているのですね。
ところが、男の子のワンちゃんのの1~2%で、この精巣の移動がどこかのタイミングで妨げられ、精巣がお腹の中に残ってしまうことがあります。この状態がはじめに述べた「陰睾」というものです。陰睾は、一般的に去勢手術を考えるタイミングでの受診時に、陰嚢を触診し精巣が触れないことをもって診断します。先に、精巣は1~2ヶ月で陰嚢内に収まると述べましたが、中には体外に降りてくるのが遅い子もいるために、確定診断ができるのは生後半年ごろと言われています。
陰睾は精巣が体内にとどまっている以外は正常なワンちゃんとなんら変わらないため、すぐに体調不良につながることはありません。しかし、陰睾と診断された場合、私達獣医師は去勢手術を強くおすすめします。それは、体内に残った精巣をそのままにしておくと将来その精巣が腫瘍化するリスクが10%ほど増加すると言われているためです。

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上は陰睾の精巣が腫瘍化した症例の写真です(左:陰睾、右:正常)。

今回は陰睾についてお話しました。陰睾は診断されたからといってすぐに治療が必要な病気ではありませんが、そのままにしておくと腫瘍化することで命に関わる可能性があります。このため、去勢手術を考えていないワンちゃんも、健康診断などで病院を受診し、陰睾がないことを確認しておきましょう。